今回の「善竹十番」公演の初日(8月29日土曜日)に上演される狂言《清水》には、こんなセリフがあります。

七つ下がって清水へ参れば、”ぐゎごぜ”とやらが出(ず)ると申しまする

主人から、茶会のために、遠い野中の清水まで行って、水を汲んでくるように言いつけられた太郎冠者が、その命令をいやがるセリフです。

この「ぐゎごぜ」とは何でしょうか?

江戸時代中期の大蔵流の狂言台本「大蔵虎寛本」を確認してみますと、”元興寺(がごじ)”と書いてあります。

元興寺というと「がんごうじ」と読んで、日本史に出て来る古寺です。その起こりは飛鳥時代。聖徳太子時代の大臣・蘇我馬子が建てた日本最初の寺。明日香村にあるので通称が「飛鳥寺」。飛鳥大仏が有名ですね。法興寺ともいいます。

また、都が飛鳥から奈良の平城京に移された時、奈良にも元興寺が移されました。こちらが一般にいう元興寺です。一般に元興寺というと、奈良の元興寺のこと。南都七大寺のひとつとして栄えました。

その元興寺に鬼が出るという話は、古くは平安時代初期に成立した仏教説話集『日本霊異記』上巻の第三話に記されています。

これは怪力で知られた道場法師という人の話です。道場法師がまだ少年のころ、元興寺に仕えるようになり、夜ごとに死人が出るという鐘堂の妖怪を退治します。彼は現れた鬼の髪を捕まえ、引きずり回した。逃げ去った鬼の、血の跡をたどると、かつて元興寺で働いていた無頼な下男の墓まで続いていた。この下男の死霊が霊鬼となって現れたのらしい。この霊鬼の頭髪は元興寺の宝物となりました。

この話がどれぐらい有名になったのかは分かりませんが、元興寺の名前は、いつのころからか「がごじ」「がごぜ」と訛りながら、寺の名前というよりは、鬼の一種の名前として有名になっていきました。(続く)

元興寺の鬼

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