演者自身による解説第三段。1日目最後の演目である《靭猿》。執筆は大名役の前川吉也です。
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太郎冠者を連れて狩りに出かけた大名が、偶然通りかかった毛並みの良い猿を連れた猿曳に出会います。
大名は猿曳に、自分の靭(矢を入れて背負う道具)に猿の皮をかけたいので皮を貸して欲しいと頼みます。猿曳は大切な猿を殺すなどもってのほかと断りますが、弓矢で射殺すと脅され承知します。
泣く泣く猿曳が一打ちで猿の命を絶とうとすると、振り上げた打杖を取って舟を漕ぐ芸を始める猿のいじらしい姿に、何があっても殺すことはできないと泣き崩れます。
これを聞いていた大名はもらい泣きし、猿の命を助けることにしました。喜んだ猿曳は大名への御礼に猿歌を謡い、猿に舞を舞わせます。猿の舞に興じた大名は猿曳に扇や小刀、装束などを与え、自分も猿と一緒になって舞うのでした。
引くに引けなくなってしまった大名が、猿曳の情、猿の健気さに猿の命を助けるに至る心の変化、また、一転してめでたく舞う、みどころたっぷりの大曲です。(前川吉也)